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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1143号 決定 1980年1月21日

抗告人 石掛文江

相手方 第一信用商事株式会社

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

一般に、文書提出命令の申立は書証の申出の一方法であるから、右申立にかかる文書につき証拠調の必要があるかどうかは本案の受訴裁判所がその裁量によつて判断すべき事項であり、同裁判所が本案についての口頭弁論を経たうえ、右文書につき証拠調の必要性がないと判断して右申立を却下した場合には、これに対し抗告をもつて不服を申立てることはできず、この点については、上訴審における本案についての審理の際判断を受ければ足りるものである。

本件についてみるに、本件一件記録によれば、本件の本案訴訟たる第三者異議事件(東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第九、三四五号)における抗告人(原告)の主張の要旨は、相手方(被告)は訴外石掛須直に対する強制執行として、金銭消費貸借契約公正証書に基づき動産物件の差押をなしたが、(イ)右差押物件は抗告人の所有に属する物で相手方の強制執行に服するものでない、(ロ)右公正証書は内容虚偽等の理由により無効なものであるから、右強制執行は不法、不当のものである、以上(イ)、(ロ)を原因として右執行の排除を求めるというにあること、そして、抗告人は、商法第三五条又は民訴法第三一二条第三号に基づき相手方が所持する相手方と訴外石掛須直との取引等に関する付属書類を含めたすべての文書の提出を求めて本件文書提出命令の申立に及んだこと、抗告人が右申立にかかる文書によつて証明しようとする事実は、前記(ロ)の主張事実であるが、原審が本件本案訴訟の口頭弁論期日において、右本案訴訟は前記のとおり第三者異議訴訟である(本件一件記録からすると、本件本案訴訟において抗告人が債権者代位等により請求異議の訴をも提起しているとみる余地はない)から、抗告人は前記(ロ)の主張をなしえないものであつて、抗告人の前記申立にかかる文書につき、その証拠調の必要がないと判断し本件文書提出命令の申立を却下したこと、以上の事実が明らかである。

したがつて、抗告人は本件抗告をなしえず、本件抗告は却下を免れない。

よつて、これを却下することにし、主文のとおり決定する。

(裁判官 外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。

抗告の理由

一 抗告人は抗告人の主張事実である被抗告人が執行の債務名儀の無効等証明の為、被抗告人が所持する文書提出を原審において求めたところ、原審は右申立は『本件の第三者異議申立事件としては文書の提出命令は出来ませんと』、却下をした。

二(1)  被抗告人は原審で争点になつている債務名儀である公正証書による契約貸付以前にも、訴外石掛須直(以下債務者とする)に対し貸付をし、その度回収をしていた。

(2)  被抗告人は本件公正証書貸付以前(昭和五三年二月~三月頃)において、保証人でもない抗告人に対し住居に、或は、会社にいやがらせや、強迫等の電話を毎日の様にかけてきて、債務者に代つてその返済をするよう求めていた。

(3)  右の行為があまりにも、えげつなく抗告人としては会社の業務遂行にも支障をきたし、警察に相談した結果『自分の意思を相手に伝える文書を差出し、その後尚かつ電話等、いやがらせをしてきた場合あらためて相談に来なさい』、と云われて当時抗告人が被抗告人に対し意志の通知をしたのが内容証明郵便物(原審甲第四号証)である。

三(1)  すなわち、前項事実でも明らかなとおり、本件債務名儀である公正証書による契約貸付以前に、被抗告人と債務者との間で金銭の貸借が長期間にわたり、かつ何度もくり返されている事実と、

(2)  被抗告人は公然と、金融業者として営業を行つている。当然業者としての被抗告人の貸付の利息は出資法に基づいて、営業とその業務を行なわれている事も明白である。

すなわち、被抗告人は本店や営業所を持ち、利息は日歩二八銭の利息を債務者等より受取つているのが実情である。

四 抗告人は、被抗告人に対し

(イ) 差押物件は抗告人所有のものである。

(ロ) 或は、債務者名儀の公正証書は実体のともなわない無効なものである。

右の様な主張を原審において主に主張し、かつその立証につとめているが、右事実の証明には被抗告人が所持する文書の提出が絶体必要なのである。

五(1)  抗告人は、主張事実を立証する為の一方法として、被抗告人と債務者とで作成された公正証書作成の原本等を閲覧したく豊島公正役場、公証人影山勇に対しその申出をし、『抗告人は被抗告人に差押えをうけ、現在裁判所において係争中である』旨説明したにもかかわらず公証人影山勇は利害関係人でないから閲覧等は出来ないと、抗告人に対し拒否した。

(2)  公証人影山勇と被抗告人は常に、公正証書等作成につき面識以上の関係にあると思われ、よつて、現在係争中の抗告人にすら被抗告人(証書作成)の秘密保持の為閲覧許可をしないので、抗告人としては主張事実の証明を著しくさまたげられているのが事実である。

(3)  加えて本件抗告事実の文書提出の主旨であるべく内容について、抗告人が被抗告人に対し、釈明を求めたところ(昭和五四年一月三〇日付準備書面中)被抗告人は黙認なのか、黙殺なのか、全くその意志表示をしない。

六(1)  以上事実のとおり、抗告人は別紙(原審における文書提出命令書の写し)のとおり、文書の提出を被抗告人に対し、民事訴訟法第三一二条及び商法第三五条等に基づいて請求をする。

(2)  すなわち、被抗告人は明らかに抗告人所有の物件を差押え、執行には抗告人が否認するにもかかわらず差押執行したのであり、その権利行使に対し被抗告人は、抗告人に対し義務とも云うべき債務の確認等について、抗告人の請求の文書提出命令書であるので(公正証書事実の貸付元金があるのか、ないのか公正証書の法律的効果の有無について本件のように訴訟上明らかにするよう求められている以上)、被抗告人は訴訟当事者として当然その文書提出の義務があり、抗告人の申出は正当な理由がある。

よつて被抗告人に対し、御庁は抗告人に速に、文書の提出をせよとの命令を発せられたく、ここに申出をする。

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